room40
掠れた墨で縦書きされた文字と、右下に添えられたオレンジ色の紙片が印象的な、手漉き和紙のようなカリグラフィー作品。

時が過ぎること 夢が過ぎること

The Story

祖父母の家はそれほど遠くなかったので、よく泊まりに行った。

昔の大きな家で、私は広い座敷に布団を敷いて寝かされた。
彼らは就寝時間も早かったので、まだ遊び足りない私は、渋々と布団に入る。

大きな部屋にあったのは、隅の床の間に置かれた鶏の剥製と、壁の大きな柱時計。

眠くもない目を無理矢理細めてみる。
目を細め続けていたら、そのうち眠くなるかもしれない。

全く眠くならない。
あまりに暇なので、目の焦点をオレンジ色の豆電気に向けてみる。
常夜灯とは言わず、昔はどこの家庭でも豆電気と言った。

焦点を緩めたり、絞ったりすると、豆電気のオレンジがボヤけたり、丸になったり形を変える。
最初はそれが楽しくて繰り返しているのだが、だんだんそのボヤけたオレンジ色と、
今日見た夕焼けの記憶に重なってくる。

夕焼けに重なると、とたんに悲しさや不安が湧いてくる。
なぜかどんどん切なくなってしまう。

広く静かな大きな畳の部屋の真ん中で、私は子供ながらに怯え始めるのだ。

恐ろしいのは、床の間の不気味でリアルな鶏の剥製ではなくて、大きな柱時計の秒針の音に。チクタク・・という可愛げな音ではない。
とても大きな時計だったので、その音は冷たくて、ちょっと擦るように時を刻む。

くるぞくるぞ。
そのうち、長針が12を指したら、きっとあの恐ろしい警告のような音が部屋中に響き渡る。
まるでこれで何かの終わりをつげるような音が。

細めた目の中のオレンジは、そのうち涙でもっとボヤけてくる。
もうどんなに目の焦点を変えても、丸には戻らない。
私は怖くて怖くて「お母さん・・」と呟いてしまう。

夕焼けが不安なのは、一日という時間が終わりに向かおうとしてることだ。
時計の針の音が不安なのは、一日という時間が終わりを告げようとしてることだ。

そして、子供が目を閉じてしまうのが不安と感じるのは、もう一生母親と会えないかもしれない、という恐怖のせいなのだと、後になって知った。

今考えると、あの大きな柱時計は人生という時間を刻む音なのかもしれない、
と思ったのは、祖父母があの家を手放し、時計を取り外した時だったことを思い出す。

目を閉じてしまうよりも、この人生を刻む音を聴きながら、いつかは例外なく向かう最後に進んでいくことのほうに、もっと怯えているのかもしれない。

Visual Story Details

Subject:掠れた墨で縦書きされた「目をとじてしまったら〜生きてゆくなぞ」という文字と、右下に添えられたオレンジ色の紙片。手漉き和紙のような質感。

Mood:懐かしさと恐怖が同居する、幼い記憶の中の静けさと緊張感。

Theme:子どもの頃の死への恐怖が、大人になって「生きていくことへの畏れ」に変わっていく、死生観の変化。

Artist:Kazue Shima (Visual Story Artist)

Related Projects